口裂け女と私
シロ太郎の散歩を、後神に任せた。
お歯黒べったりには、風呂を勧めた。
約三十分だけ作り出せた二人きりの時間。
日本家屋の縁側で隣に座る彼女……口裂け女の手を軽く握り、私は微笑みかけた。
「今日は、少し涼しい様だね」
「……はいっ」
頬を染めて頷く彼女に、私は安堵する。
私は何故だか女性ばかりを連れて来てしまい、彼女はそれを嫌がっていたような、そんな気がする。
少しでも機嫌が直ったなら、それ程嬉しい事は無い。
彼女は私を静かに見つめて居た。
「……どうしたんだい?」
私の言葉にくすりと笑う彼女は瞼を閉じて、私との距離を詰めて来る。
彼女の唇は、私の――。
「有り難う、御座います」
彼女にしては少し大胆……いや、少しどころか大分大胆過ぎるその行為に私が固まってしまったその時、彼女は心から嬉しそうにそう言って立ち上がった。
「今日は、肉じゃがにしましょうね」
彼女のふんわりとした声が、家全体を包んで居る様な気がした。
「……ああ……楽しみだね」
《口裂け女・私》
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