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魅惑のスープ


 食パンをくわえて走ったことはあるかい? 僕はないよ。何かを食べたり飲んだりするときは、立ち止まらないと上手くできないんだ。
 そんな僕は、今、走っている。
 食べ物はカバンの中。遅刻しそうだった。
 バス停まで、一生懸命に駆け抜ける。火星行きのダイモス交通バスに飛び乗って、空いている座席に腰を下ろした。お腹が空いていたけれど、車内ではものを食べてはいけないから、我慢。
 星間ワープ便なので、火星には二時間で到着する。それまでの間、空腹を耐えなければならない。
 窓の外を虹色の光が飛んでいく。次は、天の川二丁目に停まる。火星ステーションは終点だ。そういえば、天の川二丁目には、おいしいムニュンスープのラーメン屋さんがある。丸っこい生き物であるムニュンを煮込んで、よく出汁をとった、すっきりと飲み干せる金色のスープが特徴なんだ。
 僕は、気がつくと降車のボタンを押していた。
 バスから降りて、宇宙でも使える携帯端末の、アミーゴの電源を入れた。連絡帳のC欄にある上司の名前を選んで、通話を開始した。
「もしもし、ずるるる」
 上司が何かをすすりながら電話に出たので、僕はびっくりしてしまった。
「あのう、今日、少し遅刻するので、連絡を入れようと思って」
 アミーゴの向こうで上司が笑う。
「ボクも今、ムニュンラーメンを食べていて、会社に遅れるって連絡したところさ」




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