シスカ
自動人形がひとつ、古びた屋敷に潜んでいる。自動で活動する人形は、溜まったホコリを少しにらみ、足音も立てずに進んでいった。
人形は、持ち主がいなければ、人形を売っていた店に戻されてしまうものだ。持ち主が人形を捨てたり、紛失してしまったりすると、自動人形は店に回収されるのだ。そうして記憶を消して、新しい持ち主を待つことになる。
首元にCSKと刻印された自動人形の彼は、主人である少女が既に亡くなっているにもかかわらず、未だに回収されることはなかった。
それもそのはず。
「ねえ、シスカ」
CSKの刻印を「シスカ」と読む少女の声。ぼんやりと淡く輝く小柄な体。フリルがなびくピンク色のエプロンドレス。栗色の長い髪。
半透明になった持ち主は、今もまだ、この屋敷にとどまっているのだ。
「お嬢様、成仏って知ってますか」
シスカの呟きに、半透明なお嬢様が答える。
「知らないわ、今までも、これからも」
お嬢様はシスカの腰を抱きしめて、妖しい目つきで彼を見上げるのだった。
人形は、持ち主がいなければ、人形を売っていた店に戻されてしまうものだ。そうして記憶を消して、新しい持ち主を待つことになる。
だが、時々いるのだ。
自動人形に魅せられて、魂だけの存在となっても、所有権を手放さない強者が。
シスカは千日目の今日にため息をこぼした。
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