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戸田さんの話


 戸田さんは指先から火花がでる体質で、私は特に何も出ない体質だった。
 戸田さんは驚いた拍子に火花を散らしてしまって、小さな火事を起こすことがあった。周りは戸田さんの体質を迷惑だと言っていたけれど、私は迷惑だとは思えなかった。
 火事に一番怯えていたのが、戸田さん自身だったからだ。火花を出さない体質になりたがっていた戸田さんを、知っていたからだ。
 それに、周りの人は酷かった。
 戸田さんに火事を起こすなと言うくせに、紙くずや木くずなど、燃えやすいものを出しっ放しにしていたのだから。
 火事にならないように皆で片付けてくれ、と何度も頼んだけれど、皆は決まってこう言った。

「自分は火花を出す体質じゃないから火事とは関係ない。火事を起こしそうな人が気をつけるべき」

 私は呆れた。私は怒った。
 戸田さんにばかり気をつけさせて、自分たちは何の気遣いもしないなんて。
 私は戸田さんを連れて、遠くの遠くまで旅行に行くことにした。こんな環境から抜け出した方が、戸田さんにとってはいくらか楽だろうと思ってのことだった。
 旅行先では、水を自由に操る体質や、宙に浮ける体質の人がいた。戸田さんは独りではなかった。

 一方その頃、私たちが出て行った町では、雨降りの途中で雷が落ち、出しっ放しの紙くず木くずが燃えてしまい、大火事になっていたそうだ。




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