口裂け女
「貴女は美しいよ」
街角で出会った彼女は、俗に言う都市伝説だった。
私、綺麗?
そう聞かれる前に答えを言ってしまうのは、私がこの都市伝説を知っていて、なおかつせっかちであったからに他ならない。
彼女は尋ねる前に求めていた答えを突き出された事に驚いたのか、無言で立ち尽くしていた。
は、と思い出したようにマスクを外す彼女が、私に問いかける。
「こ、これでも……?」
口が耳元まで裂けた顔だが、はて、あまり驚けない。
そうだ。
子供の頃に読んだお化け図鑑にあった「口裂け女」のイラストの方が、よほどグロテスクで怖かったのだ。
「ああ、美人じゃあないか」
私は間髪を入れずに、答えた。
あれから、数ヶ月。
控えめな性格で家事も万能。
私の手をそっと握ってくる
口が耳元まで裂けた彼女は、今も隣で、静かに微笑んでいる。
《口裂け女》
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