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うつろい引っ越しセンター


「妖怪の引っ越しというのは、なかなか骨が折れるものだ」
 うつろい引っ越しセンターで働く田中さんは、妖怪専門の引っ越し業者ということもあって、数多くの妖怪たちの転居を手伝ってきた。
 そんな田中さんは、こう続ける。
「一つ目小僧の一人暮らしかと思っていたら、障子に沢山の目が覗く目目連と夫婦だったことがあった。それに、つくも神だらけの家では、捨てて良いものと悪いものを区別できずに、結局全部持っていった」
 喋らない妖怪も当然いるので、そういうときは独自のコミュニケーションを取らなければならない。
 一番大変なのは音だけの妖怪だよ、と田中さんは笑いながら言った。
「徳利転がしは姿が見えなくてね。運ぶ方法が分からなかった。そこで思いついたのが、ボイスレコーダーに録音することだった」
 引っ越し先で、録音した徳利転がしの音を再生すると、なんと大成功。ころんと徳利が転がる音が聞こえたかと思ったら、いつの間にか現金がちゃぶ台の上に置かれていたという。
 妖怪は怖くないのですか、と問うた我々に、田中さんは言う。
「人を襲うものもいるし、それは怖いな」
 だが、田中さんの表情は穏やかだった。
「でも、妖怪だってより良い暮らしを求めてる。その手助けはしていきたいね」
 田中さんの仕事用の携帯電話が鳴った。




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