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我々の冬


 冬は皆が厚着をする。露出度は減って、もこもこと着膨れする。
 そんな事を気にし始めたのは、ミカンがファッションファッションと雑誌を買っては読み、買っては読みを繰り返しているからかもしれない。
「なーんでメンズ系のモッズコート着てくるかなぁ? あっ、コートの下に着てるやつ、ガップの新作じゃん。しかも男物!」
 こんなに寒い季節でもスカートは絶対に脱がないらしいミカンは、可愛らしいニットのカーディガンとカラータイツで防寒は完璧といったところだった。
「……だから、痴漢対策だって」
「いや、だんだんノリノリになってきてるように見えるね。ミズナ、もしかしてファッションの世界に目覚めた? いやーん、いらっしゃい!」
 ミカンのリアクションが完全に女子だ。
 映画を見に行く約束で待ち合わせた、冬休みのニューサクラ駅。映画の時間が迫るまで、そんなしょうもない会話で時間を潰していた。

「……そういえば、最近スケッチブックを大量に買い込んだって、聞いたけど」

「あ、そうそう。ファッションデザイナー目指してるからさ、今からいろんな服のスケッチして勉強しておかないとなって!」
「……学業のほうは?」
「ま、まあ、頑張ってますよ」
 ミカンはこうと決めたら突っ走る癖がある。夏休みなんかも勉強そっちのけでレジャーを詰め込んで、私を振り回したくらいだ。その後で宿題を写させてくれと言ってきたので、私は少し考えて、いやだ、と返したのだったか。
 冬休み前だって、授業中にファッション雑誌の切り抜きをスケッチブックに貼り付ける内職を始めてしまって、先生にひどく叱られていたくらいだ。

「……今日見る映画は、何だっけ」
「ほら、安くてかわいいアパレルブランドあるじゃん。エターナルトゥエンティーツー。あの会社を立ち上げるまでのドキュメンタリー」
「……途中で寝てもいい?」
「待って待って、絶対感動するから! 面白いから!」
 冬休みの宿題は、さっさと済ませてしまった。
 きっとミカンは終わらせていないだろう。締め切り前に片付けることの必要さを、ファッションデザイナーになってから痛感しても、遅いのだけど……。
 そうして彼は言うのだ。頼む、宿題写させて、と。
 だから私は返すのだ。少し考えてから、いやだ、と。
「いらっしゃいませ、カップル割引をご利用ですか?」
 映画館の店員が放った言葉に、ミカンがノリノリで頷いて、私が固まった、冬の午後。

「……私、髪、長いのに」
「最近ポニーテールにしてる男の人ちらほら見るからね」




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