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僕と秋


 最っ悪!
 何がっていえば、満員電車。
 毎朝乗っている車両で、僕は痴漢にあったのだった。そう、ミズナが疎ましがっていた痴漢に!
 あのおぞましい手つき。いやらしい指使い。もう鳥肌ものだ。吐き気がする。怖くて声が出なかった。ミズナはこんな奴らに気を遣って男装してるっていうのか!
 どうしようもないムカムカが僕を襲った。
 男がかわいいものを身につけられる世界に、なんて目標のほかに、女が変態に絡まれない世界に、なんて目標も追加されたくらいの出来事だった。

 それをクラスメイトに愚痴っていたときのことだ。
「そんな格好してるからだろ?」
 無神経に笑われたのは。
 僕がかわいい女性服を着ていたから悪いのか? 僕がスカートを履いていたから悪いのか? リボンがふわふわだったからいけない? 僕が男子の中では小柄だったから、いけなかったっていうのか?
 思わず田中の胸倉を掴んで睨みつけていた。
 田中は、ひぃ、と甲高い悲鳴をあげていたが、知ったことじゃない。
 人がどんな格好をしていようと、やっちゃいけない事はいけないだろうが!
 教室内で怒鳴り散らそうとした僕の後ろに、誰かがいた。
 男子の制服を着た女子だった。

「……いや、百対ゼロくらいで、痴漢が悪いでしょ。犯罪だし」

 ぼそりと呟くように言って、さっさと席についてしまうミズナ。
 僕の中の怒りがすっと消えうせて、代わりに浮かんできたのは、涙……。
「わーん! ミズナ! 怖かったよぉ! あいつらマジ無理! キモイ! 声出せなかったー!」
「……よしよし」
 ミズナを抱きしめて泣く僕を見た男子から、本当に怖いのはお前だ、という突っ込みが聞こえてきたが、僕はそれを綺麗に無視した。
「女子が痴漢にあわないですむファッション考えるよ、僕!」
 高々と宣言した内容に返ってきた拍手は、女子たちからのもの。男子がぽかんとしているのが見える。
 僕だって当事者にならなければ分からなかった、この恐怖。
「待っててね、ミズナ!」
 そう宣言したら
「……たぶん、強制的に待たされるやつだね」
 僕のことをよく理解したコメントが返ってきたのだった。




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