×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

私の夏


 女装している男子生徒に声をかけられた。たしか、名前は木立ミカン。
 ファッションデザイナーを目指しているらしい彼は、セーラー服にアクセサリーをつけて教師に注意されていたり、スカートにフリルをつけようとして教師に止められていたり、上履きを厚底にしようとして教師に叱られていたりと……まあ、服装の研究に余念がない人だった。
 そんな木立くんが、まとわりついてくる。
「水野さん、購買いこう!」
 と手を繋がれたり。
「水野さん、体育の時はやっぱり男子の服?」
 と密着されたり。
「水野さん、ミズナって呼んでもいい?」
 と隣を歩かれたり。
 やたらと距離を詰められて、私は困惑していた。
 異性装をしている仲間だと思われたのかもしれない。
 困ったな。私はただ、電車で痴漢にあいたくないから学ランを選んだだけなのに。
 木立くんほどの美意識なんてないのに。

 そんな怒涛の春が過ぎて、夏休み直前の登校日。
 ミカンは私の夏服を見て言った。
「ねえ、ネクタイ締めてみるっていうのはどう? 色はブルーで」
「……どうして」
「だって制服なんて着崩してなんぼじゃん。僕だってリボンは雑貨屋さんで買ってきたふわっふわのにしてるし」
「……私はそんな趣味、ないし」
「いいじゃんいいじゃん、どうせなら他の皆みたいにTシャツとか着ちゃってもさ!」
 ミカンの女装に完全に慣れたクラスメイトは、彼をいじめるでもなく、村八分にするでもなく、「変わった男子」として扱っていた。
 私のことは、男装の理由を知るや否や「気の毒な女子」として扱い始めたくらいだ。

「痴漢対策なら髪の毛も短くしちゃえばいいのに」

 ミカンが言うので、私は返した。
「……いや、服装が違うだけでだいぶ痴漢にあわなくなったから、これでいいかなって」
「えー。じゃあ、どうせなら髪にウェーブ入れるとか、カールさせるとかしようよ。似合うって絶対」
 女装男子と男装女子。
 教室内で、私たちはコンビ扱いをされている。
 それがたまらなく迷惑で……ミカンのなれなれしさにも辟易していた。
「今度、僕が行く美容院に一緒にいこうよ」
「……そんなに仲良くない人とは、行かないよ」
「ひっど! クラスで一番仲良しじゃん、僕ら!」
「……ミカンが勝手にくっ付いてきてるだけだよ」
「だってミズナ、僕の女装見ても顔色一つ変えなかったんだもん。色物扱いされないのって嬉しいもんだよ?」
「……知らないよ」
 明日から夏休みだ。
 宿題を早めに済ませようと考えている私をよそに、ミカンがプールに行きたい、夏祭りに行きたい、と言って私の予定を乱していく。
 ああ、なれなれしいな。
 ただ、それを断らない私は私で、どこかおかしい。




*back × next#
しおりを挟む