春の空
入学式で見た彼女は、長い黒髪をなびかせて、学ランを身にまとっていた。背筋をピンと伸ばして、誰の視線も気にせずに廊下を歩いている。
身長はそこまで高くない。中肉中背。肌が少し白い人だった。
「平安第三中学校から来た……水野ミズナです」
同じクラスになった彼女は、元々無口なんだろう、呟くようにそうとだけ言って自己紹介を終えてしまう。周りがざわめく。
男子の制服を着ている女子生徒なんて珍しい。とでも言いたげだった。
そういう僕も、彼女のことをじろじろ見ていた口だけど。
さて、僕の番だ。
勢い良く立ち上がって、僕はみんなの視線を受ける。僕だって人の視線は気にしない。
セーラー服のリボンを直して、にっこり笑う。茶髪のセミロングと、アイプチで大きく見せた目、スカートから覗く無駄毛が生えていない足。完璧だ。
「平城第一中から来ました、木立ミカンです! 将来の夢はファッションデザイナー、こう見えて男です!」
「ええええええっ!!」
途端にクラスの男子たちから悲鳴が上がった。僕のことを女の子だと勘違いしていた人たちからの声だった。
水野さんを見たときよりも教室のざわめきが大きくなる。構うもんか。僕はかわいいもの大好きな男なのだ。制服もかわいいほうを選んで何が悪い。
ちら、と水野さんの方を見てみた。
僕のほうなんて見ていなかった。
ノートに黙々と何かを書き込んでいる。周りが大騒ぎしているのに興味を示さないなんて、マイペースというか、何というか。
着席した僕。
次の出席番号の人が立ち上がる。
「田中です、こう見えて男です」
上がる笑い声。見れば分かるよ、という突っ込み。早速僕がいじられキャラになったか。
まあ、慣れてるからいいけど。
水野さんは笑わない。水野さんは、僕の格好を見て、すぐに視線をそらして、隣の席の女子に話しかけられていた。
水野さんは、僕の格好を見ても、動じない。
それだけで嬉しくて、クラスから浮くことなんてどうでもよくなってしまったのだった。
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