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トリップコーヒー/彼は蠍の心臓に/時間に追われる


 看板の濁点が足らないコーヒー店に入った僕は、カウンターに腰掛ける。
「本日はどちらへ行きますか」
 マスターが尋ねてくるので、本当に旅行できるのか、と驚いてしまった。
 出てきたコーヒーは赤黒い色合いで、芳醇な香りと酸味を感じる味だ。
 学生の頃、友人と二人で見た大きな夕焼けを思い出した。
【トリップコーヒー】

 この列車に乗る人々は皆、星になるのだと知った秋の夜。あの宝石のような輝きは、寿命を終えた者の最後の火だったのだ。
 何一つ特別ではないという顔で、僕の従兄弟は列車に乗った。引き止めたかったけど、彼の体が淡く輝いて赤い光を放つから、いつか空を見上げるからねと約束するので精一杯だった。
【彼は蠍の心臓に】

 一秒後は未来であり、一秒前は過去である。私はその、一秒と一秒の狭間を常に移り渡って生きている。もしかしたら、一秒前の自分と今の自分は、同じ体を共有し、同じ行動を共有する別人かもしれない。確かめるすべはない。
 と、三十分後という果てしない未来の予定を見つめながら、私は荷物を背負う。
【時間に追われる】




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