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「私が殺したのよ! 私が殺したの! それを、巨大な半魚人が現れて! 彼の死体を!」
 脳波は正常。
 倫理観が欠如している利己的な思考以外はほぼ正常。
 だが、こうも毎日興奮している様を見ると、何か怪しい薬物でもやっているのではと疑いたくなる。半魚人だなんて言っているし。
 採血をして成分を調べてみたが、薬物反応はなし。おかしい。ならば何故支離滅裂なことを叫んで、目を血走らせて、何かに怯えるように吠え立てているのだろうか。
 精神病院に閉じ込めているが、もしかして彼女がおかしいのではなく、本当に半魚人がいるのだろうか?
 そんな馬鹿な。
 彼女を観察しながら鎮静剤を打つ。窓の外にいつもいるカラスが興味深そうにこちらを覗き込んでいる。見世物じゃないんだぞ、と軽く睨むが、実のところ私も彼女を見世物のように思っている節があった。
「私が彼を殺して、半魚人が出てきてね、先生……マンホールの中に引きずり込んでいったのよ……包丁も、返り血を浴びたコートも、全部奪われたのよ」
「それが本当なら、私は通報しなければいけませんね」
「……通報?」
「何をきょとんとしているんですか。あなたは人を殺したのでしょう? ならば警察に通報して逮捕してもらわなければならない」
 自供だけでは逮捕はできないだろうが。
 何か、証拠でもあったら話は別だ。
 彼女は顔をゆがめて首を横に振る。
「私、私は悪くないのよ! 彼が私の愛情を受け取らなかったから悪いのよ! 警察なんて冗談じゃないわ!」
 この人格はどこでどう形成されたのだろうか? とても気になる。
 警察に渡してしまうのが惜しいくらい、彼女は人格破綻者として理想的なモデルケースだった。
「人を殺した。だが自分は悪くない。それじゃ話が通りませんよ。話を聞く限り、正当防衛というわけではないんでしょう?」
「彼は私を傷つけたのよ!」
「はいはい、お薬打ちましょうね」
「本当に! 本当に……うう……あぁ……」

 遠くで犬の遠吠えが聞こえる。
 カラスが群れで鳴いている。
 赤い赤い夕暮れの中、本当なのよ、と泣く彼女を見下ろして、一番愉快に思っていたのは、誰だろう。

 面白い、面白い。




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