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ろうそく灯して


 アロマキャンドルが好きな彼女は、熱帯魚も好きだった。流行の魚を買ってきては、流行遅れの魚たちを下水に捨てるような人だった。
 彼女はとても執念深い性格で、こうと決めたら曲げない部分があり、そのせいで家の中はある男の写真でいっぱいだった。
 今日もアロマキャンドルが灯る。
 家主がいない、この家で。
 彼女は、なんでも病院に担ぎ込まれたらしい。精神に異常をきたしたとか、なんとか。
 彼女の友人が家にやってきた。入院のための服や金や診察券を取りに来たのだろう。私が尻尾を振って迎えると、友人は優しく私の背を撫でた。
 私はしばらく、この友人の世話になるようだ。リードをつけられて、さあ、行こうと声をかけられる。何も分からないふりをして首を傾げれば、彼女の友人は悲しそうに笑った。

 私は鼻が効かない。
 アロマでいぶされ続けて嗅覚が馬鹿になってしまったからだ。
 そのにおいをやめてくれと頼もうにも言葉が話せないので、彼女の王国から逃げ出すためにある事をしたのだった。
 まず水槽の電源を落とした。酸素不足で腹を見せて浮かびだした熱帯魚たちを、彼女はやはり下水に捨てた。情のない女だ、と私は思うが、彼ら熱帯魚を殺したのは私なので、情がないのは私も一緒なのだろう。
 次に道のマンホールに向かって唸るような鳴き声を出した。
 これだけで伝わるだろうかと不安になったが、無事伝わったようでよかった。現に彼の亡骸は下水に浸って、処分され始めていると聞いた。
 下水に同胞の亡骸が流れれば嫌でも気づくだろう。その上助けを求める唸り声が……そう、三年ほど前まで共に暮らしていた私の鳴き声が聞こえてきたなら、あれは、生きているならば腰を上げることだろう。
 荒い計画だったがうまくいった。よかった、よかった。

 まあ、彼女のためでもあるのだ。
 あの性格を直さなければ、きっと人生、生きにくいに違いないから。
 私は彼女のためを思って躾をしただけにすぎないのだ。
 ろうそくを灯す彼女がいなくなっただけで足取りがこんなに軽いとは。




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