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戦隊VS悪役


 彼はサソリだった。
 腰からは尻尾が生えていて、腕や足はところどころ黒ずみ、背筋は完全に甲殻で守られていた。
 顔は人間のそれだが、目は八つあった。
 背が高かった。
 どうもサソリ怪人と人間の間に生まれた子供のようで、将来は父の後を継いでサソリ怪人として悪の秘密結社に就職するようだ。
 つまりは私の敵である。

 私は初代正義レンジャー、ピンクの孫である。
 今はピンクや白だけでなく水色や黄色、魔法少女系にいたってはどんな色でも女が着こなせる時代である。なので私はピンクを受け継がなかった。たしか八人いる戦隊のうちのグリーン担当だったと記憶している。
 自分で言うのも何なのだが、地味な女だ。
 大きな眼鏡で顔の半分は隠れるし、前髪は長いし、大柄でも小柄でもないし、古着屋で安く手に入れたフードつきの渋めなコートをいつまでも着ている。

 そんな二人が出会ったのは、大学の講義の最中だった。
 教授に質問しようと授業の終わりに残っていたら、サソリ怪人くんも同じ考えだったようで、ばっちりと目が合ってしまったのだ。
「ええと、桃山……緑(みどり)さん、だっけ」
「いや、桃山、縁(ゆかり)。よく間違えられるけど」
「あ、ごめん」
 質問したかった箇所も同じだった。二人揃って教授からの解説を聞いて、ノートに書き込んでいく。二人揃ってお礼を言って、頭を下げて教室から出て行った。
 廊下を歩いて掲示板の前に行く。次の授業までは時間があるから、私は適当に暇を潰さなければいけない。
 サソリ怪人くんは、と見ると、彼も暇つぶしをしなければならない身であるようだった。
「悪の秘密結社に入るんだって? 高下くん」
 何とはなしに聞いてみる。高下くんとはサソリ怪人くんの本名である。
 フルネームは高下ジェノサイド。物騒だ。そんな所で父親の血を主張しなくても、と思わずにはいられない。
「うん、そうすると桃山さんとは戦うことになるね」
 ぼんやりと高下くんは返してきた。

 どんな攻撃をするの、とは聞けない。必殺技を明かすことは怪人としても戦隊としても致命的だ。
 世界の平和を脅かす者も、世界の平和を守る者も、等しく教育が受けられるこの国は、何だか歪で、何だか平等で、いいのだか悪いのだかコメントに困る。
「戦闘のシフトは週二回か三回くらい? 私はそれくらいなんだけど」
「いや、僕は就職したら四天王になるらしいから、データ処理とかが主になるかも」
「え、四天王!? すごいね!」
「凄くはないよ、父さんが残した椅子に座るだけだし……勿論、努力はするけど」
 正義の味方と悪役がするような会話ではない事は分かっている。
 次の授業は違う科目を選んでいたため、そこで別れた。
 それが先月のことだった。

 大地の闇王、ジェノサイド。
 大地属性なんだか闇属性なんだかどちらかにしてほしい。贅沢な二つ名を背に、彼は悪の秘密結社に就職してきた。新卒で一発採用とのことだった。
 父親の実力もあるが、何よりサソリと人間が半端に混じったようなビジュアル、黒いレザーコートとファーつきのブーツが異様に似合って迫力があったこと、彼が体に流している毒の威力、それでいて落ち着いた性格。全てがキャラクターとして求められる要素だったらしい。
 四天王として私の前に現れた高下くんは、バリア能力だけが取り得の私では勝てないような相手だったのだ。
「手加減はしないよ、桃山さん」
 彼が言うのに、私は頷く。
「世界は渡さないよ、高下くん」
 私は彼を睨みつけた。彼も私を睨みつけた。
 かなわない敵だと、私だけが知っていた。
 かなわない恋だと、私だけが知っていた。




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