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朝顔


 枯れた井戸に巻きつく蔓が萎れている。仕方ない事だ。井戸は枯れているのだから。
 ギラつく太陽に照らされ背に汗を浮かべた男性がジャケットを脱いだ。ワイシャツには汗のシミと木々の影がコントラストを描いている。
 古井戸から北に三十メートルほど歩くと赤い手すりの遊歩道があり、丸く開けた休憩エリアの真ん中に自動販売機があった。
 そこまで行くのは面倒だ。
 男性は木陰で涼もうと井戸に近づき。
 立ち止まり。
「……お互い大変だな」
 何かを呟いて北に歩き出す。ジャケットを肩にかけて。
 太陽光を遮るものが何もない丸い休憩の広場には、誰もいなかった。熱された自販機がうんうんと唸る音だけが響いていた。男性は小銭を自販機に飲ませると、注文を一つ。

「……焼け石に水だろうかな?」
 枯れた井戸にペットボトルの中身である水をぼたぼた流し込みながら男性は言った。
 萎れた蔓が小さな朝顔を咲かせているのを見ながら、男性はこの暑さに苦く笑う。
 こぢんまりと咲いた赤い朝顔が風に揺れた。




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