本日の空想/風声/環
毛玉のような狸が今日も適当な事を言う。
「今日は大雨です」
信じると恥をかく事が多いので信じない。折り畳み傘を鞄に入れる。
信じていないけど傘を用意するのは、それを見て嬉しそうにする毛玉がいるからだ。
「虹の上を歩けますよ」
狸はきゃっきゃと笑いながらそう言った。それは信じてみたい。
【本日の空想】
せっかく夏を通り過ぎて出番を終えたというのに、再び暑くなってきて引っ張り出された風鈴が怒りの声を上げていた。
ぢりんぢりんぢりんぢりん!
ああ休みたいのだなと思って、買ってきたアイスをお供えしてご機嫌をとる。
ちりん。
あ、音が透き通った。涼やかな風の音だ。
ガラス細工は繊細なのだ。
【風声】
祭りの端でピアスが売られている。僕はシンプルな金色をしばし眺めていた。
耳に穴を開けたことはない。
ピアスで連想するのは、痛みだ。
耳を貫く一瞬の痛みを思い描いて躊躇を覚える。
まるで断られるのが怖くてできない愛の告白みたいだ。
露店を去る。君に電話を入れよう。これをお守り代わりに。
【環】
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