恋色/はかない/細々の幸
狐火だ。近づけば消える炎の球。浮遊するのは墓場じゃなく、私と君の思い出の場所。
君が会いにきたのか。それとも私が呼んだのか。どちらかは分からないけど、未練で燃えているのは明白だった。
君の燃えるような濃い色の瞳を思い出す。
私の方が消えたくなった。狐火はそれを止めるように浮遊する。
【恋色】
虫の死骸が足元に転がっている。嵐の後に大量発生したものが、誰かの殺虫剤で始末されてしまったのだった。
僕はそれらを箒と塵取りで片付ける。誰も片付けようとしないのだ。
羽虫、蟷螂、アゲハ蝶。虫嫌いはとことん殺虫剤をまき散らしたらしい。
亡骸はゴミ箱へ。虫の墓など作れない。申し訳ない。
【はかない】
やってしまった。
麦茶だと思ったんだよ。なんの疑いもなくコップに注いでしまった。気づいたのは、一口飲んでからだ。
麺つゆ。
やってしまった。
やけに明瞭に見えると思ったら。すっかり忘れて顔を洗ってしまったよ。
眼鏡をかけたままだった。
失敗を報告できる相手がいる。そんな仕方のない幸せ。
【細々の幸】
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