子々孫々/何が必需かは人それぞれ/蜘蛛の糸は猫の声
【子々孫々】
「いち、いち、に、さん、ご、はち、じゅうさん」
彼女が唱えているのはフィボナッチ数列だ。直前の数字と今の数字を足した合計が、次の数字になる。
「子孫の増え方に似てるね」
「子孫?」
「アダムとイブが、二人でくっついて、子供が生まれてその孫が」
そうして僕らまで繋がっていくのだそうだ。
【何が必需かは人それぞれ】
生活必需品を売る店がある。
どれも割高なのは、必需品なら買わざるを得ないだろうという足元を見た商売だからか。
対人関係が得意になる薬は一万円。これがよく売れる。効果が切れたらまた買わなければならないから、この店はぼろ儲けなのだ。
私は構わずノートを買った。投げ売り同然の値段だった。
【蜘蛛の糸は猫の声】
転がって、転がった。斜面でつまずいたのだ。
天地も左右も分からないくらい転げて体の節々が痛んだ。
飛び出てきた仔猫を避けようとして体が傾いたのが転倒の原因だった。
痛い。どん底とはこんな気分だろうか。
にぃ。仔猫の声。
安堵と笑いが込み上げて、どん底から掬い上げられたような気がした。
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