人面な時点で/賽銭を弾まなければ/目の前の魔女
【人面な時点で】
人面犬という都市伝説がある。人の言葉を喋るらしい。
うちの犬は人の顔をしているが、言葉は喋らないので違うのだろう。
「お手」
「ワン」
この通りワンしか言わない。食べるのはドッグフードだ。
「都市伝説なんていたら怖いよね」
「ワン」
犬はしっかり頷いた。分かる、と言っているようだった。
【賽銭を弾まなければ】
夜間の警備員になった。怖がりだというのに給金の高さにつられて。
見回るのはデパートだ。懐中電灯片手に歩く。お化けでも出そうで怖いので、神社で祈ってきた。
「何事もありませんように」
お化けは、出た。
出たけれど、彼らは怯えて逃げていく。どうやら祈った神様が睨みをきかせてくれたらしい。
【目の前の魔女】
魔女が惚れ薬を作ったという。一見ただの水。飲んだあと初めて見た相手を好きになる。そんな薬だ。
「なんて薬があったらいいんだけど」
魔女は笑って言った。なんだ、冗談か。真に迫った彼女の様子にドキドキしていた僕は喉が渇いていた。机の上の水を飲む。
「飲んだわね?」
彼女がにやりと笑った。
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