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3


 壊れたコタツの中にそいつは存在する。いや、そいつではない。そいつらだ。コタツは動く。壊れたコタツはどこにも繋がっていないので動くのだ。当然のことだ。
「チェシャ猫、呼ばれたから来たよ」
 チェシャ猫と呼ばれ、コタツがぴくりと動くのを止めた。中でなにやら蠢いているのは分かる。
 燕尾服を着たアリスがコタツの欠け布をめくった。そこにはぎっちりと猫が詰め込まれていた。火車に猫又にごとく猫である。彼らは揃ってアリスを見ると、のそのそとコタツから出てくるではないか。
 よくも小さなコタツから成人男性ほどの大きさもある猫たちが三匹、出てこられるものだ。
「アリスにお知らせがあるんだ」
 猫又が告げた。
「いい知らせだが、悪い知らせでもある」
 ごとく猫が目を閉じる。
「だが、まあ、そのうち慣れるだろ」
 火車がやや乱暴に呟いて、アリスの頭をがしがしと撫で回した。

「アリス、君は人間だ。この世界で唯一の」
「人であり、人でない、それがお前だ」
「要するに、死んでも生きてもいないのがお前だった」
 猫又、ごとく猫、火車の順に口を開く。内容は何のことはない、アリスの状況を口にしているだけ。アリスはそれだけで、大体のことを察した。
「私は妖怪の端くれになったという事だな」
「ああ、病院の生命維持装置が切られたからな。もう二度とお前は自分の体に戻るまいよ。魂は切り離され、永遠にアリスのままだ」
 脳死状態で病院のベッドにチューブとコードで縛り付けられていた退屈な時間がようやく終わったというのだ。確かにいい知らせでもあり、悪い知らせでもあった。
「妖怪アリス、誕生日おめでとう」
「誕生日を嫌う青坊主どもでも、お前の誕生日なら祝うだろうな」
「妖怪アリス、ようこそ妖怪の世へ」
 口々に祝いの言葉を投げかけられる。アリスは口元だけで小さく笑った。
「ありがとう。おはよう、みんな」




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