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雨の君/悲しい歌/人形の怪異/人形の怪異、フランス版


【雨の君】
 雨でずぶ濡れになっている君に何をしているのか尋ねると、君は少し誇らしげな様子で口を開いた。
「知識を蓄えてるの」
 知識?
「雨に濡れた感触、冷たさ、張り付く服、雨音のせいで声を張らないと聞こえない事とか、そういう知識」
 ええと、濡れた君が色っぽくて目に毒だという知識は、必要だろうか?

【悲しい歌】
「かけがえのない一生、きらめく人生、素晴らしい世界、素敵な運命」
 輝くステージで歌う君を見て、逆さにして歌いたいだろうにと思った。
 平凡で、灰色の世界で、泥臭い運命だと思っているだろうに。
「無理するなよー」
 客席から声をかけたら、客たちに睨まれた。君は泣き笑いの顔をして、僕を見た。

【人形の怪異】
 捨てても捨てても戻って来るフランス人形を戻って来るたびに売り払っていたら、いい加減に受け入れてあげなさいよ、と髪が伸びる市松人形に苦言を呈された。
 売り払ったお金で市松人形の髪をトリートメントしているのだけど。そう返したら、市松人形は少し黙り込んだ。
「……あと一回だけ売りなさい」

【人形の怪異、フランス版】
 頭に来た。何度家に向かっても、また帰って来た、と言っては骨董品屋に売りに行くあんたに。
 衣装が変わってるの! 髪型だって変えたの! 気づきなさいよ!
「いい加減に受け入れてあげなさいよ」
 市松人形がため息をついた。
 なんたる屈辱。蚤の市で私を見て可愛いなって言ったのは、あんたの癖に!




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