危機回避/苦痛/ないないさん/あくま
【危機回避】
自分とそっくりな人物に出会うと死んでしまう。それがドッペルゲンガーである。
私はそんなドッペルゲンガーがガッカリしているのを初めて見た。いや、ドッペルゲンガー自体を初めて見たんだけど。
「……ごめん」
とりあえず謝っておこう。
「ごめんね、プチ整形して」
そっくりじゃなくなった事を。
【苦痛】
異世界に転生した。美少女だった。魔法の天才で、王女様だった。生まれつき伝説の龍の加護を受けていた。許嫁も格好良かった。
勉強は苦手だったが、男前な家庭教師が丁寧に教えてくれた。
「王女様、何なりとご命令を」
執事もまたイケメン。
しかし、前世の「僕」は男だ。ただひたすら、嬉しくない。
【ないないさん】
ないないさんは何でもなくす。テレビのリモコン、服についたボタン、提出しなければいけない書類。
慌てて探す人間を見てクスクス笑っているのが、ないないさんなのだ。
「なんで冷蔵庫にリモコンが?」
「あれ、テレビの裏に書類が」
そして変な場所にしまってしまうのも、ないないさんの仕業である。
【あくま】
引き籠ってもいいよ、と悪魔が囁く。交流なんてしなくていい、と告げる。仕事もしなくていい。一日中寝てばかりでいい、と。
疲れて壊れかけた人間の前に現れては、社会が美徳とするものをコケにするのだった。
「人間を堕落させる為には、まず正常に戻さないと……ああ、ほら、寝てていいんだってば」
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