幸せの幸せな逃がし方/一反木綿職人/本当
【幸せの幸せな逃がし方】
ケセランパサランが飛んで来た。幸せの象徴だ。風に乗って飛ぶ彼らは、別に行きたい所なんてないらしい。
捕まえて瓶に入れて幸せのお守りにする人達もいるが、私は眺めるだけにした。
願い事なんてしたら彼らが消えてしまいそうで、何も考えないよう気をつけた。ふわふわとした、緊張のひと時だった。
【一反木綿職人】
一反木綿職人の夜は遅い。夜明け前までに一反木綿たちのほころびや破れを縫い直してやらなければならない。
中には汚れている一反木綿もいるので、優しく手洗いしてやる必要があった。
ミシンや洗濯機ではモチベーションが下がるのだと一反木綿たちが言うので、一反木綿職人はいつまでも手作業である。
【本当】
天邪鬼は嘘つきだ。
彼を信じて酷い目にあった人は数知れず。信じてくれてありがとな、と嘲笑う彼を皆が忌み嫌った。
何度騙されても信じる彼女以外は。
「ほら、美味しい苺があるぜ」
「本当?」
実は蛇苺だ。
苺を食べてしまった彼女に彼は言う。
「信じてくれてありがとな」
彼は笑っていなかった。
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