世界は狭い/うっすらと影/猫の背
【世界は狭い】
「おばあちゃんの口は、どうして大きいの?」
ベッドの中で狼は考えた。目の前で子豚を抱いている人間の少女には、毛むくじゃらで大きい自分が本当に祖母の姿に見えているのだろうか、と。
「この幻覚魔法いつとけるんだ」
困った様子で声をかけると、ベッドの下でお菓子の家の魔女がくすくす笑った。
【うっすらと影】
日が長くなる夏。影までも長く伸びて、赤い光の中、君の名残が僕を飲み込んだ。目の前には誰もいない。ただ足元に影。君の影。
僕はガードレールに花束を立てかける。僕を包む君の影は小さく手を振って、うっすらと揺らいで消えていった。
日が長くなる夏。これで三度目の夏。
君が帰ってくる、夏。
【猫の背】
猫背になると呼吸がしにくく、後ろ向きな考えが浮かびやすくなる。と、まっすぐな背筋の猫が私に言った。
「背筋を伸ばして」
猫の指導が入る。私が無理やり背筋を伸ばすと、猫は私を見たまま口を開いた。
「ほら、清々しい気分で僕にご馳走をやりたくなっただろ?」
ふっと笑ってしまった私の負けだ。
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