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置いていかれる/半吉の午後/うちの猫又


【置いていかれる】
 一反木綿は人の顔に巻きつき死なせるらしい。そう教えてくれたのは、最近意志を持ち始めた祖母の着物の帯だった。
「私はあの人に精気を分けてあげたかったけどねえ」
 一反帯は、亡くなった祖母を思って呟く。
「人間は儚いね、儚くて狡い」
 連れて行ってくれなくて狡い。帯の声が和室に寂しく響いた。

【末吉の午後】(280字)
 末吉と名乗ったスーツ姿の細い男は、手に大きな鎌を持っていた。先ほど私が引いたおみくじの運勢をそのまま名乗った、胡散臭い男だ。
「私は今日死ぬんですか?」
「その予定なんですがねぇ」
 末吉なんて運勢の日に? 思わず顔をしかめる。せめて大吉か凶か、はっきりした運勢で幕を下ろしたかった。
「今日の午後四時四十四分にお亡くなりになります」
「そんな事を伝えてどうするんですか」
「悔いが残らないよう、この日を満喫していただきたいと思いまして」
 末吉は真面目な顔をしていた。大きな鎌が鈍く輝く。
「亡くなるまで私がお守り致します」
 ……この人は死神に向いていないのではないか。

【うちの猫又】
 私の飼い猫は猫又だが、尻尾は一本だ。猫又になってすぐ、事故で失ってしまったのだ。
「隣のろくろ首さん、君が猫又だって信じてないみたい」
「信じてもらわずともあたしはあたしよ」
「あの人の目の前で喋れば、すぐ猫又だって分かるのに」
「他人の承認なんて人生のおまけだわよ」
 さすが二十歳。




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