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優しい夜だった/皿には水を/我らがテディ


【優しい夜だった】
 図画工作の時間、紙を紫色のクレヨンで塗り潰した弟が担任に心配されていた。呼び出された母も父も、なぜ塗り潰すのかと弟を責める。
紙には一か所だけ白丸が描かれていた。
「綺麗な月夜だな」
 私は言う。弟の弾けるような笑顔が星明かりのようで、その輝きで紙の月夜はますます綺麗になっていった。

【皿には水を】
 河童は頭の皿が乾くと力が出なくなると聞き、持っていた炭酸飲料をかけてしまったのが先程のことだ。
 頭から背筋を伝い足まで、じりりり、と痺れていた河童がようやく口を開く。
「マッサージみたいで悪くないや」
 なら今度は無糖の炭酸水をかけてやろう。皿に蝶が群がっているのを申し訳なく思った。

【我らがテディ】
 埃にまみれたクマを見た。
 小児科病棟で長年使われていたらしい、ボロボロのぬいぐるみだった。
 今は物置きで静かな余生を過ごしているようだが、子供の相手をしてきたせいか、毛が抜けていたり、カラフルな当て布をされていたり、何度も縫い直した痕跡が見られたりした。
 誇りにまみれたクマを見た。




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