斜めに巡る/離したくない/かな文字
【斜めに巡る】
二度目の人生は、君の手に飛び乗って驚かれ、叩き落されるだけの虫だった。
三度目の人生は、君から餌を貰いすぎて水が濁り、弱ってしまった金魚だった。
僕ら何度だって巡り会おうと一度目の人生で約束をして、それが叶っているのにどうにもやりきれない。
四度目の人生は君の息子だった。
ああもう。
【離したくない】
手を繋いだ。私よりも高い体温の手が、汗で湿っていた。私よりも低い身長は、道路からの輻射熱で温められている。
「抱っこかおんぶしようか?」
せめて輻射熱からは逃がしてやりたいと息子に尋ねると
「もう子供じゃないから、いい」
と小学校低学年のプライドを見せつけられた。手は繋いでいるのに。
【かな文字】
ひらがなで名前を書いた。小学校ではまだ習っていない字を書いてはいけなかったから。
ひらがなで名前を書いた。中学校では中二病だと馬鹿にされそうだったから。
ひらがなで名前を書いた。高校では奇抜な名前だと目立ちたくなかったから。
ひらがなで名前を書いた。今は自分の子が読みやすいように。
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