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天樹/道々/温かな心遣い


【天樹】
 貴方への気持ちを土に埋める。好き、嫌い、好き、嫌い。一つずつ丁寧に埋めていたら、雨の日に傘を差してくれた貴方の顔を思い出した。それも土に埋める。青空の下、喧嘩をした記憶。埋める。
 やがて貴方への気持ちが芽吹いて大樹になって、天国と呼ばれるそこまで届くように、丁寧に、埋めるのだ。

【道々】
 人生は各駅停車の電車だと誰かが言う。途中下車は許されない。終点まで吊り革を掴まなければいけない。
 なら私はタクシーに乗ってこう言おう。
「すみません、寿命までお願いします」
 気がきく運転手は寄り道をして、回り道もして、寿命という終点までの間、私に酸いも甘いも教えてくれる筈である。

【温かな心遣い】
 温かい雨が降った。何もこんなに暑い日に温められたままの水が降り注がなくても、と空を見れば、雲の上に人がいた。
 その人は一生懸命に氷をばら撒いていた。地表を冷まそうと努力してくれていた。だが地面に届く頃にはすっかり温かくなってしまっているのだった。
 ただ無情に、虹だけがかかっている。




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