文学者曰く/目頭の梅雨/夏、夏
【文学者曰く】
深い深い森の中、月夜だけが届く木立の中央に、夜だけ咲く人食い花があった。人食い花は人を栄養に育つが、夜に森へ入り込む人などそうそういない。その花はすぐに枯れて跡形もなく消えるだろう。
なら何故咲くのか?
何故他の動物を栄養にしないのか?
命の価値を計り間違えた人間を間引く為だろう。
【目頭の梅雨】
てのひらの上に落ちる雫。傘をさして一人歩く。雨の日が続く。まるで梅雨に降らなかった分を一気に取り戻すかのように。
貴方に告白した。好きでしたと。相手がいる人にするような告白ではないのに、貴方は受け入れてくれた。
ありがとう。その言葉に目元が潤む。
雨の日が続く。私の雨の日が、続く。
【夏、夏】
君と重ねる手と手から伝わる温もりに、眉根を寄せた。
温かい。いや、熱い。
僕は冷え性で指先が冷たいから、君の体温の高さを受け入れ兼ねていた。
熱くて溶けてしまいそうだ。
「好きな人と手を繋ぐの、初めてで……体、火照ってきちゃった」
君はそう言う。
好きな人。
熱くて溶けてしまいそうだ。
*back × next#
しおりを挟む