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エピローグ

 ヒロヤはメーカーに返却されることになった。
 そう決めたのはカナメだった。
「ボディガードはできないことがわかったけど、このまま家庭教師にでもなってもらえばいいじゃない?」
 カナメの母親はヒロヤを見て、そう提案していた。父もそれに頷き、執事としては申し分ないじゃないか、とまで言ってくる。
 カナメは首を縦には振らない。ツナギ姿に着替えて、レンチを片手にこう返すのみだ。
「ボディガードも執事も間に合ってるわ。……言うこと聞かないけど」

 カナメの部屋の椅子には、右腕を失い、左足に釘が刺さったアルキメデスが座っていた。退屈そうに頬杖なんてついている。
 カナメはスクラップ処理場で拾ってきた彼の右腕を見て、顔をしかめた。外装もズタズタだが、中はもっと酷い。磁力で指令系統がいかれている。
 黙々と修理しながら、どんどんオイルにまみれていくカナメが何かのにおいを感じ取った。
「ちょっと、アルキメデス。修理中にタバコふかさないで」
「うるせえ……修理なんざとっととやめちまえ、こんなオンボロ放っておけよ」
「お断りよ」
 配線を繋ぎなおし、それをアルキメデスの肘に当ててコードをつなげていく。短く断られたアルキメデスがぽかんと彼女を見ていると、カナメは気恥ずかしそうに視線をそらし、んん、と咳払いを一つした。

「私は誰の言うことも聞かないわ。どっかの誰かさんと同じでね」

「……お前、それ……」
「私のやりたいようにやるのよ、悪い?」
「……いや、最高だね」
 アルキメデスの左腕が、作業を続けるカナメの手をとった。
「動けないわ」
「まあ、聞いてくれ」
 彼が掴んでいるカナメの手は、アルキメデスのモノアイに吸い寄せられるかのように近づいていく。こつん、とモノアイがカナメの手に触れた。
「……これから毎日、俺のメンテをしてくれねえか」
 神妙な様子で声を出すアルキメデス。カナメは笑った。
「何それ、プロポーズか何か?」
「そうさ、俺はよぉ、お前みたいなバカ女が嫌いじゃねえんだ」
「バカ女って何よ! いいわよ、一生面倒みてあげるんだから! 後悔するんじゃないわよ!」
 半ば喧嘩に近くなっている。アルキメデスの申し出を受け入れ、カナメは再び口を開く。喧嘩腰だがその表情は明るかった。
「じゃあ、あんたは私にアップルパイを焼きなさいよね! とびっきり美味しいのを! レモンティーを忘れたら承知しないんだから!」
 アルキメデスの、形が変わらないはずのモノアイが、愉快げに笑ったような気がした。
「おうよ! 一生作ってやらあ! 食べ切れなくても知らねえぞ!」
 顔を合わせばいつだって口喧嘩。
 そんなカップルも、いたっていいのではないだろうか。

【AIとレモンティー・終】

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