AIとレモンティー5
「私に従ってくれるのはプログラムのせい……私のことが大切だったわけじゃない……そうよね……ロボットって、そういうものよね」
ふらふらと後ずさるカナメは、ヒロヤの暖かい微笑みに目を向けられなくなっていた。いつもにこにこと笑い、カナメの言うことを聞き、確率論ばかり口にする彼は、合理的な選択でなければ行動しない、ロボットだ。
ポンコツポンコツと馬鹿にしてきたアルキメデスの方が、彼の何百倍も人間臭い。
涙で前が滲んできた。
愛されていたわけではなかった。イケメンと一緒にいられて、完全に浮かれていた。カナメは、栄愛家の主人の一人でしかなかったのだ。
ヒロヤは未だに微笑んでいる。
それがたまらなく悲しかった。
思わず背を向けて走り出すカナメに声をかけてくれるのは
「おい、どこに行くんでぇ!」
やはりアルキメデスだ。
「うるさい! ついてこないで!」
買い物袋を捨て去り、傷心したまま走り続けるカナメ。
何もかも忘れたい。誰とも顔を合わせたくない。自分で勝手に夢を見て、暴走して、馬鹿みたいだ!
涙を流して駆け込んだ先は、誰もいないスクラップ置き場の、コンテナの中だった。
「……ここなら、誰も来ない……一人で泣ける」
蹲り、膝をきつく抱きしめる。カナメの目から溢れる雫がスカートを濡らしていく。
ヒロヤに、もっと心があったなら。もっと人間味に溢れていたなら。後悔の念が胸をよぎり、苦しくなった。
ガシャン。
遠くから音が聞こえる。
泣くのをやめてコンテナの中から周りをうかがうと、周囲のガラクタたちが空中に浮いているのが見えた。違う。浮いているのではない。磁気を持った機械が鉄くずを吸い寄せ、一つのキューブになるよう押し潰しているのだ。
「し、週一回の、処理場が動く日!」
自分でアルキメデスに“潰されてしまえばいい”だなどといっておいて、すっかり忘れていた。
慌ててコンテナから出ようと駆け出す。コンテナが大きく揺れた。
ガン! という何かが吸い付いた音。スクラップにする装置に捕まったのである。
「う、うそ……誰か!」
必死に声を張り上げる。
「助けて! スクラップは嫌よ!」
持ち上げられる感覚の中、コンテナの出口にしがみついて叫ぶカナメの姿を、二体のロボットが見つけた。
「カナメェー!! 何してんだ、あんなところで!!」
「カナメ様がスクラップになる確率、八〇パーセント」
「言ってる場合かてめえ! 急げ!」
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