AIとレモンティー1
東京都、夢東京市。
執事ロボと呼ばれるメカが発売されて、はや五年が過ぎた。
執事ロボとはその名の通り、身の回りの世話をし、主人に従い雑事をこなしてくれる優れもののロボットのことだ。いまや全世界に知れ渡っている便利なロボットは、一家に一台必ず完備されていた。
栄愛(えいあい)家もまた、そのうちの一軒。
「あーあ……」
なのだが。
栄愛家の一人娘であるカナメは、退屈そうにため息をついていた。手に持つのはドライバーと新品のケーブルである。
軍手をはめた手はオイルで薄汚れ、彼女が着ているツナギにまでオイル汚れが飛び跳ねていた。
「イケメンと結婚したいわあ」
「なんでえ、藪から棒に」
大きく吐き出される愚痴にツッコミが飛ぶ。銀色で細身のメカが椅子に腰掛け、カナメを見ていた。カナメは銀色のメカの言葉に再びため息を付く。
「なんで私、あんたなんかのメンテナンスしてるんだろ……」
「お前が俺の持ち主だからだろぃ? いいから左腕とっととくっつけろ」
「主人に指図する執事ロボがどこにいるのよ!」
「ここにいんだろうがよ! 左腕ねえと不便で仕方ねえや! ほれ、とっとと終わらせちめえ!」
恋に恋する年頃のカナメ。しかし現実はこうだ。銀色で細身、しかもモノアイの旧式ロボット、その名をアルキメデス。彼のメンテナンスで服を汚す日々。
「もう嫌! イケメンと結婚したい!」
駄々をこねるように声を荒くしたカナメに、アルキメデスは設置されてもいない鼻を鳴らして笑った。
「イケメンなら目の前にいるだろうがよ? ロボ界のイケメン様がよぉ」
「今、人間界の話してんのよ……ちょっと! メンテ中にタバコふかさないで!」
「うるせえ、とっとと終われメンテなんざ」
アルキメデスの舌打ちが響いた。
主人のいう事は聞かない。タバコや酒をたしなむ。口調は乱暴で態度もよろしくないときた。素行が悪い上に他の家庭よりも旧式な執事ロボに、カナメは嫌気が差していた。
こんなポンコツ、とっととお払い箱になってしまえばいいのに!
新しい執事ロボに優しくされて、ついでにイケメンと恋に落ちたいわ!
アルキメデスの左腕をはめてやりながら、そう思わない日はなかった。
「イケメン……」
「呼んだか?」
「あんたじゃない」
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