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D.O.G1

「いいもの沢山! 爆発! 通ー販!!」

 馬鹿でかい声量で、テレビの中の司会者が飛び上がる。この司会者は番組が始まるといつも爆発する傾向がある。ピンク色のラメ入りスーツ上下という喧しい格好で、星型のサングラス、髪型はポンパドールと非常に胡散臭い。
 ぎらぎらしたピンク色の彼が握っている商品すら胡散臭く思えるほどだ。
「本日お勧めしたいのは、爆発! こちら!」
 いちいち爆発しなければ気がすまないのか。
「これをつけるだけで動物が人の言葉を話せちゃう! その名も! 爆発! バベル・フレンズ!」
 おそらく爆発は商品名に含まれていないだろう。
 それにしても、バベル・フレンズとは何とごつい名前だろうか。濁音まみれの商品名からはフレンドリーさの欠片も感じない。何ならバベルの塔の末路を思い出してしまい縁起が悪いことこの上ない。
 この商品はかの○○リンガルを先祖に持つという高性能の翻訳マシンだ。動物の性格を反映した口調や声でリアルタイムに人語へと翻訳してくれる優れもの。お子様の情操教育や、身寄りのないお年寄りの話し相手にぴったりなのだそうで、いまや世界の半数近くが購入している……らしかった。

「爆発! 大大大大、大ヒット! 絶賛! セールス中! なんですよぉ! お値段は! 爆! 発! 次のニュースです。カルガモの赤ちゃんたちが行進しました」

 無表情でリモコンを片手にため息をつく者が一人。
 煩い通販番組から、さっさとニュース番組に切り替えてしまった人物の名前は、陸(りく)。空海(くうかい)家の一人っ子だ。
「……そこまでして誰かと会話したいもんかね」
 冷ややかに、そして馬鹿にしきった口調で吐き捨てる。
 陸はバベル・フレンズに対して否定的だった。買ってたまるか、と鼻を鳴らし、その手の特集があるとすぐにチャンネルを変えるほどである。
 ソファに深く腰掛けてニュース番組をぼんやりと見る陸。足元には退屈そうに欠伸をするハスキー犬が一頭。犬の名は一心(いっしん)。空海家の番犬かつ、陸の唯一の友人であり兄弟のような存在だった。
 一心にはバベル・フレンズなどというふざけた首輪をさせていない。これは陸の方針だ。ペットショップで買ってきた普通の首輪で充分だと、陸は強くこだわっていた。
「……人の言葉なんて……誰かを傷つける事しかできないじゃないか」
 ゴミ袋に突っ込まれた中学の卒業アルバムが、生ごみにまみれている。
 部屋の掃除をしている最中に出てきたアルバムだ。学校生活に嫌な思い出しかない陸にとっては、地獄のような産物である。
 文集、テスト、学級通信……部屋で見つかった学校生活の痕跡は全て生ごみまみれで明日の収集日を待っている。特に同窓会のお知らせなんかは酷い。びりびりに引き裂かれてゴミ袋の奥の奥に突っ込まれていた。
「僕は人なんか嫌いだ……人の言葉なんか嫌いだ……」
「次のニュースです、何者かがばらまいた毒入り団子で飼い犬が死亡するという事件があいついで……」
 ぱちん。電磁波がはぜる音と共にテレビのスイッチが切れる。途端に静寂が訪れ、ハスキー犬のあくびだけがよく響いた。
 陸はソファの上で膝を抱える。膝の上に顔を埋めて、強く自分を抱きしめていた。
 毒入り団子で死んでしまえばいいのだ。
 此方に向かってごみを投げつけ、罵声を浴びせ、くすくす笑いながら存在を無視してきた中学時代の同級生など。
 忘れたことはない。あちらはただの暇つぶしだっただろうが、陸は義務教育時代の三年間を人間不信で過ごしてきたのだ。傷は癒えることなどない。
 陸は人の言葉が嫌いだった。
 陸は人が大嫌いだった。

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