今のご時世じゃあ
薄寒い風に包まれ、指先凍る春のことだった。A通路は通ってはならないと言われていたが、少年はあまりの寒さに近道を思いつき、電灯が明滅を繰り返すそこへ足を踏み入れてしまった。
通れば蛇になる。そんな言い伝えがある、線路下のトンネル通路だ。
翌日、少年の私物と共に、一匹の蛇が発見された。
少年の両親は、息子が本当に蛇になってしまったと嘆き、その小さな蛇を引き取って世話をすることにしたそうだ。
蛇のような、黄金色のガラス玉のような瞳を持つ警察官が、狐顔の神主にそう言っているのを聞いた。
たかが線路下にあるトンネルの通路に、人間を蛇に変えてしまう力などあるのだろうか?
「そろそろ疑われても知らんぜ」
一応、忠告をしてやると、蛇の目の警官と狐顔の神主は揃って私を見、ニヤリと嫌味な笑いを浮かべて口を開いた。
「はは、神隠しなんて、今のご時世、誰も思い浮かべやしないよ」
「そうですよ狸顔。知っていて止めなかったお前も同罪です」
参ったな、これはどうも。
ただ、白くて珍しいとはいえ、蛇一匹と交換だなんてケチ臭いと思う。
そういえばあの少年、きれいな顔をしていたな。あれは天狗好みだったろう。
……高値で売れてしまったろうな。
狸顔には、どうすることもできないが。