鎮魂デジタル
32ギガバイトのUSBメモリに入っているのは、あの日の思い出と懺悔で。
データはいずれ古くなり、劣化していき、跡形もなく消えると分かっていても、未練がましい僕らはUSBメモリを握りしめて、遠くまで逃げようと足掻いてしまうのだ。
下らないことで言い合いになったし、どうしようもないことで笑いあったし、晴れの日もあれば雨の日もあって、そうして、二人で並んで海を見た。
写真、日記、メールのやり取り。
すべてを詰め込んで、20ギガバイトにも届かなかった、僕らの繋がり。
途中で退席した君は、知ることはないのだろう。
僕がむきになって、ひどい言葉を投げかけてしまった後、ごめん、と何度も謝ったことを知らないのだろう。
君があの交差点で事故にあったと聞いたとき、魂が抜けるような思いをして、急ぎ病院に駆け込んだことも知らないのだろう。
途中で退席した君は。
僕より早く、この世を卒業した君は。
誰にも奪われることはないと分かってはいても、僕はこのUSBメモリを誰にも見られないように握りしめて歩いていた。
あの日の思い出と懺悔を詰め込んだ、20ギガバイト未満の荷物を手に、あの日君と見た海へ向かう。
どうしようか。捨ててしまおうか。この軽い軽い思い出たちを、広い広い思い出の中に、投げ捨ててしまおうか。そんな風に考えて、僕は。
僕は。
……やめた。
海に沈めば君の思い出とともにこの地を去ることができるだなんて、そんな世迷言。
やめたよ。
ねえ。
あと三十年だけ待ってて。
僕は君の後を追いません。
あと三十年だけ待ってて。
このUSBメモリと一緒にそっちに行くからさ。
その時は、懐かしい昔話をして盛り上がってさ、また、くだらない喧嘩をして笑おうよ。