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伝達欲求

 言葉を間違えた。乱気流と上昇気流を取り違えて話してしまった。誰にも指摘されなかったが、妙な後悔が心に残っていた。
 誰も気にしていないことが気になってしまう。
 伝わったからいいや、とのんきではいられない。
 もっと上手い言い方があったはず。もっと適切な表現があったはず。もっと単純に表せたはず。もっと率直に。もっと優しく。もっと正しく。
 つい、探してしまう。
 つい、欲張ってしまう。
 独特の言い回しが味になると言われても、不安になってしまう。今以上に伝わりやすい何かが、必ずどこかにあるはずなのだ。
 考えすぎて額が重くなってくる。熱もある。
 きちんと。そう、きちんと伝えたい。余すことなく、しかし、しつこくもなく、絶妙な具合で、適切で的確な語句を選びたい。
 誰も気にしないほどの小さな部分でも、もっと伝わるはず、もっと明解な言葉があるはず、と求めることを諦めずにいたい。
 自己満足だ。すべて。
 誰にもこのこだわりを理解されないかもしれない。それどころか、こだわっていることにすら気づいてもらえないかもしれない。それでもいい。構わない。
 空の青さを、太陽の熱さを、雨が肌にまとわりつく感触を、土の匂いを、カラスの羽ばたく音を、潮の香りを、水に抱かれる苦しさと安心感を。
 ひとつ残らず伝えたいから。
 五臓六腑に、染み渡らせたいから。