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多様な海

 私の下半身はタコである。人魚の中では珍しい方かもしれない。イルカの下半身や、尾ビレが長い魚の下半身に憧れたこともあるが、八本の足か腕かは分からないそれがとても器用に動くので、今ではすっかりタコの人魚であることが自慢になっていた。
「かわいそうにねえ」
 私のタコ足を見て、下半身がタイの婦人が憐れむように声をかけてくる。
「皆と同じような尾ビレが欲しかったでしょう」
 見れば、ウツボの下半身を持つ人魚には何も言わないのに、ウミヘビの下半身を持つ人魚にはかわいそうだと話しかけに行っているようだった。
 下半身がイルカの女性にも、魚類ではないので気の毒だと言っていた。

「あの人はクマノミの人魚に、性別が変わってしまうなんてかわいそうだと言うんだよ」
 クラゲの人魚が教えてくれる。「普通」の「魚」じゃないと、あの人のかわいそうレーダーに引っかかってしまうらしい。普通の魚とは何だろう。それでは、毒を持つ魚たちは、タイの婦人にとって普通なのだろうか。マンボウのように特徴的な体の魚は? サメのように肌がざらついていて背ビレが個性的な魚は?
「タコの人魚さん、考えすぎは体に毒ですよ」
 タチウオの人魚が静かに海中を貫くようにして泳いでいる。クラゲの人魚は、かわいそうと言われても知らない顔で、ふわふわと漂っていた。
 普通の魚ばかりでは、生きていくのに苦労する。

 やはりタコであることは私の自慢でしかない。