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秋夜

 くらげが町の中を泳いでいた、秋の夕暮れ。
 紺色と紫色と朱色がグラデーションになって広がる空に、ぽつぽつと白いものが浮かんでいるのを見て、最初は星かと思っていた。
 ふわりふわりと漂うそれは、本来なら海にいるはずの小さな月たちで、町の灯りに照らされては、半透明な体にオレンジや白を浮かべていた。
 アパートの裏で寝転がる猫は、無害なくらげ達とうにゃうにゃ会話をしている。きっと彼らにはなんらかの共通点があって、それで話が弾んでいるのだろう。例えば、そう、月。
 くらげは海月と書くし、月夜に猫はなかなか様になる。月で繋がる彼らは、朝が来るまで話し込むのだ。うにゃうにゃ、ふわふわと。
 たこはアパートの一室で、くらげ日和と書かれた文庫本を手に、草むらで月を見上げる狸とウーロン茶をたしなんでいる。一階の三号室で暮らすたこは、駐車場の明かりに照らされて輝くくらげにぺこりとお辞儀をした。
 トワイライトゾーンに沈みゆく秋の夕暮れ。
 人間である僕は、人ではないもの達の世間話を聞きながら、紅茶を入れてひと休み。
 ああ、そういえば、もうすぐ百鬼夜行の季節だ。
 くらげはぼんぼりに、猫は語り部に、たこは書記係に、狸は行列の整備に忙しくなる。
 くらげが町の中を泳いでいた、秋の夕暮れ。
 たこ壷に隠れるたこ、変化を解く狸、喋る猫。
 もうすぐ夜が明ける。
 また明日。
 アパート裏で猫が、くらげをかぶって笑っていた。