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月刊、サトウトシオ番外編3

 塩見雪緒だけに、当てつけかい? まったくしょうのないものを買ってくるね、君ってやつは。
 なんて言われるだろうかと少しだけ緊張しながら、綺麗な海の写真があしらわれた箱を取り出して、白い猫足のテーブルに置いた。モンドセレクション受賞と誇らしげに書かれている、可愛らしい箱だった。
「……宮古島に行ってきたのかい?」
「いえ、通販で取り寄せてみたんです」
「ふうん。雪塩……ああ、聞いたことがある。地下の海水を組み上げて作った塩なんだってね。パウダー状の」
「へえ」
「なんだい、買ってきた側が知らないなんてことあるかい」
 呆けた返事の僕をばっさりと切り捨てる塩見さんは、雪塩という言葉の響きに何も感じていないのか、それとも無視をしているのか、遠慮なしに箱を開けて中身を取り出していく。
 棒状のサブレが、個別包装で丁寧にしまわれていた。雪塩だけあって普通のちんすこうとは違い、色味が白い。
 僕も一袋手に取って、包装を破った。先に食べていた塩見さんが立ち上がり、白い部屋の隅で唸る、白い冷蔵庫へと向かっていく。
 冷えたほうじ茶を取り出して戻ってきた彼は、透明なグラスに褐色のお茶を注ぎながら息を深くついていた。
「普通のちんすこうと違って、あまりラードの匂いがしないね」
「ラード……豚の脂ですね。そう言われると、あまり感じませんね。歯ごたえも柔らかめだし、甘塩っぱくてなかなかいけますよ」
「塩が甘さを引き立ててる。……君さ、あまり調子に乗って食べない方がいいと思うんだけど」
 青白く不健康な肌が、ミルクホワイトのちんすこうをつまんでいる。同じような白でもここまで違うのか、と感じながら、僕の手は次の雪塩ちんすこうへと伸ばされていた。
「そうは言っても美味しくて……止まらないんですよね」
「知ぃらない」
 ザラザラした声が僕を突き放す。一応忠告はしたよ、とほうじ茶を飲みながら告げる彼は、少しずつ菓子を食んでいた。
 それにしてもこの上品な甘さ。口当たりは軽く、いくらでも食べられそうだ。……いや、ラードは案外腹持ちがいいから、途中で腹が膨れるかな?
 塩見さんのリアクション目当てで持ってきたというのにすっかり僕が夢中になっていて、彼はそんな僕を見ながら、きし、と声をあげた。

 数分後、口から水分を奪っていくちんすこうと塩の組み合わせにより壮絶な喉の渇きを覚えた僕は、優雅にほうじ茶をたしなみながらおやつを楽しむ塩見さんに「そのお茶を下さい」と何度も頼み込む羽目になり、何度か無視をされる事態に陥るのだった。
「忠告はしただろ、調子に乗って食べるなって」
「こういうことになるなら、教えてくれればよかったじゃないですか」
「君はいくつだい? 予測して、自制を覚えな」
 塩対応。
 雪塩ちんすこうの方が、甘みがあるだけまだ優しい。
 ごくりごくりと音を立ててお茶を飲み干す僕に、塩見さんはきしきしと小さく笑っていた。
「それで? この菓子を買ってきた動機ってのは何だろうね? 砂糖と塩(サトウトシオ)が含まれてるから? それとも僕の名前をもじっただけかい?」
 茶を飲む手が、思わず止まった。
 にんまり笑ったザラザラ声で長身の不健康な青年は、頬杖をついて僕を覗き込む。
 少しだけ、どもった。

「だ、ダジャレに、決まってるじゃあ、ないですか」