×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

毒林檎の名前

 手を繋いで歩く。
 美しい黒髪をした少女と。
 ばさばさの茶髪の私。
 白魚のような手をした少女と。
 荒れた手を持つ私。
 しとやかな長いスカートが似合う彼女と。
 ダメージジーンズの私。
「白雪姫のようね」
 私が言うと、彼女は眩しいものを見るように目を細め、口元を綻ばせた。
「あなたは鏡のようだけど」
 彼女が言う。私が鏡? 彼女と正反対の姿をした私が?
 自信のなさが顔に出ていたらしく、彼女が一言「悲しそうな顔ね」と呟くのが聞こえた。元々私は下がり眉なのだから更にそう見えただろうと思う。
「私は常に自信がないのよ」
「嘘でしょう、そんなに美しいのに」
「見てくれはね。それに見合った中身を持てればと、いつも戦々恐々と生きているの」
「それで、どうして私が鏡なの」
 彼女は私を見た。眩しいものを見るように目を細めて。既に笑っていなかった。
「あなたは、私がなりたい姿をしているもの」
「……私の姿が、自由に見えるの?」
「もちろん、あなたにだって制約があるでしょうね。でも……私はその制約を飲んででも、自立して歩いていきたいの」
 私だって彼女のように凛として生きたい。
 お互い、似たもの同士なのだとその時に気づいた。
 だったら鏡だ。なるほど。確かに鏡映しの二人だ。
「私は鏡だとしたらね?」
「ええ」
「あなたを映す鏡なのだから、安心すべきなのよ」
「まあ……喜んでいいのかしら」
「いいわ。特別よ。これからあなたの手を引いて歩くわ。あなたは隣にいてちょうだい。いつだって私と鏡映しのあなたをあげるから」
 彼女は気づいているのかしら。
 鏡は正直者なのだということを。
 女王に尋ねられてつい白雪姫が美しいと言ってしまうような馬鹿正直なのだと。

 私のそれが彼女の毒林檎であるとたった今自覚してしまった鏡に、責任を取らせてちょうだい。お願いよ。