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斜め上に

 天然ボケの相手をするのは疲れる、と上田さんが言う。僕から見たら上田さんのほうが天然に見えるのだが、その上田さんが「天然ボケの相手をするのは疲れる」とはっきり言ったのだ。
「同じ話を何度もするし」
「ああ、うん」
「あと、よく道に迷ってるし」
「道に」
「そう。お孫さんが様子を見に来ても、あなただぁれって、きょとんとしてるの」
「それって」
「忘れちゃってるんだね、きっと。名前を聞いたら思い出すらしくって、あらー、前に会った時は二歳だったのにって言うの」
「天然ボケっていうか」
「それに同じ話を何度もするし」
 下村くんは天然ボケの人に会ったことある? と聞かれて、僕は口ごもった。
 天然ボケをそう解釈する人など上田さんくらいしかいないし、指摘してしまったら上田さんが唖然としてしまいそうだし。
「抱っこしてベッドに寝かせるの、すごく疲れるんだよね。それ以外は良好」
「……うーん、理不尽な目にあったりはしないの?」
「するする! でもさ、天然ボケだから悪気はないわけじゃん?」
 あ、そこは普通の天然ボケと一緒の解釈なのか。
 ……ん? 普通の天然ボケって何だろう?
 だんだん混乱してきた僕をよそに、上田さんは自販機で缶コーヒーを買って、ぷしゅ、とプルタブを開けた。
「よく振ってお飲みくださいだって」
 そしてそのまま。

 缶を振った。

「うわ! 中身が出てきた! ごめん下村くん!」
「大丈夫、悪気はないって知ってるから」