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一眼レフ

 きっとこれは恋なのだろうと思う。
 この冴えない女に惚れた私の負けなのだとも。
 勝負なんてしていないのだけれど、何とは無しに、ああ負けた、とあっさり認める事ができたから、きっと私の負けなのだ。

 私は会社員で、彼女はカメラマン。
 毎日を忙しく走り回る私は、部下や後輩をきつく叱ることもあった。自己嫌悪。きりきりした私の顔つきは、私自身も嫌いだった。
 彼女は刻々と過ぎていく時間を切り取って、永遠の一瞬を飾り立てる事に命をかける仕事。後輩もいるのだろうけど、怒っているところなど見た事がなかった。いいね、と他人の写真を褒めてばかりで。私と正反対。

 彼女には洒落っ気がなかった。だぼだぼのパーカーに、ジーンズに、スニーカー。化粧もせず、髪もまとめず、いつも眠たげ。背は高くも低くもなく、体型は太っても痩せてもいない。
 どこにでもいるような見た目だが、ありきたりな要素を全て注ぎ込むと逆に目立つのだと、初めて会った時に思った。
 彼女は眠たげな目で、和やかに笑う人だった。
 穏やかで緩やかで、暖かだった。
 彼女の周りだけ、時間と空気がゆっくり流れているような気がした。

 こんなに冴えない人なのに、どうして私は彼女を好きになったのだろう。
 こんなに外見に気を遣わない人なのに、どうして私は彼女を好きになったのだろう。
 人付き合いだって頑張らない彼女なのに。
 私にだって愛嬌を振りまかない彼女なのに。

「やあ、おはよう」

 そう言われただけで、なぜこんなにも安心するのだろう。
 ああ負けた。
 私は負けた。
 理屈抜きで、彼女に惚れたのだ。
「今日は早いのね」
 珍しく待ち合わせに遅刻しなかった彼女に言えば、彼女はのんびり笑っていた。
「君と二人きりで出かけるのに、待たせちゃ悪いと思って」
 何も気負わない彼女の空気は、私にゆっくりと呼吸をさせてくれるから。
 だから私は、穏やかに笑えるのだろう。
 この一瞬さえ、永遠に切り取ってほしい。