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昔からの仲

 古書店の奥で眠る痩せた男は、不健康そうな隈を目元に浮かべていた。年中寝不足のような見た目だが、年中眠っているのでそれはない。
「おう、本を売りに来てやったぜ」
 乱暴な口調で褐色肌の大男が店にやって来る。誰かから譲り受けたのだろう古い書物を惜しげもなくカウンターに置くと、痩せた男が目を覚ますのと同時に手のひらを突き出した。
「いくらだ?」
「せっかちだね、君という奴は」
 色白で長身な古書店の店主が、呆れたように手を弾いて、カウンターに乗せられた本に目をやった。筆で書かれたタイトルは時代を感じさせる。
「千円で買い取ろうかね」
「おい目に隈野郎、足元見てんじゃねえぞ」
「なんだい、褐色野郎。金欠だからってたかるのはおよしよ。みっともない」
 どうせその日のうちに呑み代に消えるのだろうに、と痩せた店主に言われて口ごもった褐色の男は、ごほん、と咳払いを一つ。「白桜(はくおう)書店」と書かれた看板を指差して言った。
「本屋やってる奴が本の査定をいい加減にしていいのかよ、レモン」
「痛いところを突いてくるね、ダイダイ……じゃあ、三千円」
「よしきた!」
 ふう、とため息を漏らしてレモンと呼ばれた色白の店主が古書を手にする。読んでみれば妖怪変化を解説したものらしく、レモンの機嫌は途端に良くなるのだった。
 ダイダイはレモンの好みを熟知している。
 子供の頃からの仲である。
「うまい酒を奢ってやるよ、レモン」
「元はうちの金だけどね」
 方向性がまったく違う幼馴染の二人は、すとんと陽が落ちる秋の夕暮れを背に酒屋へ向かう。
 昔と変わらず、手を繋いで。