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鬼の平和

 人生にモテ期は三回来るという。
 一度目は幼稚園の年長の頃。転んで泣いていた女の子にハンカチを渡してあげたら大変喜ばれて、同じクラスの女の子たちからすごく褒められた。卒園するまでずっと、キノ君はやさしい、と評判だった。
 二度目は中学生の頃。地味で大人しい僕だったが、変にスレたり格好つけたりせず、自然体で女子に接していたら、男子たちからはからかわれたが、女子たちからは嫌われることなく、それどころかカラオケやゲームセンターに連れ込まれて沢山相手にしてもらった。きっと、とっつきやすかったからだと思う。

 そして三度目。

 死んで地獄に行くことになった時のこと。
 地獄行きだなんて僕は相当な悪人だったのか、とびくびくしていたのだが、これは地獄の「獄卒」という役職への就職であり、僕が裁かれるわけではないのだと知った。
 それから今に至る百年くらいの間のこと。
 地獄に落ちてきた亡者や鬼たちに、お疲れ様、お茶でもどうですか、と声をかけて、時折肩をもんだり、話を聞いて共感したり……まあ、学生時代と変わらず、自然体で過ごしていたのだ、僕は。
 それがとても受けてしまって。
 キノ君はやさしい、と評判になった僕は、今や引っ張りだこ。極寒の地獄や灼熱の地獄、虫だらけの地獄に、話を聞いて欲しい、お茶を一緒に飲んで欲しい、と名指しで呼ばれる毎日だった。
 モテ期の三回目が終わらない。
 それはそうだ。だって鬼や亡者の時間の感覚は、生きている人間と違うのだから。
「キノ君、血の池地獄の鬼がマッサージして欲しいんだって」
「はぁい、あそこ、時々血をかき混ぜなきゃいけないから肩がこるんですってね」
「そうそう、じゃあ気をつけてね」
 フリーの獄卒として、僕は生き生きと死んでいます。