秋のヨナガ
花が散る。物凄く速い彼によって花が散る。
一気に地に降りてきた彼は、草を枯らして木の葉を落とし、炎の気配を吹き消して駆け抜けていった。
人はかじかむ手をもみながら彼の到来を知る。
彼の名は「秋」といった。
実りを与えてくれる彼は、同時に熱を徐々に奪っていく彼でもある。
「昨日までは暖かかったのに、一気に冷え込んで」
「本当よねぇ、お洗濯したのに乾かなくて参っちゃうわ」
井戸端会議を笑って聞きながら、彼は走り抜けていく。
遠くで犬の鳴き声がした。
すぐに暗くなる空を吠え立てているようだった。
「ヨナガ、冷えてきたでよ、窓しめれ」
「はいよ」
ヨナガと呼ばれた少年が、窓際へ近づいたその時だ。
キンモクセイの強い香りと冷たい風が、少年の頬を撫でていったのは。
「秋に見初められっと風邪引くぞぉ」
分厚い上着を着た祖父に笑われて、ヨナガは赤い頬で窓を閉めた。