人間嫌い
そうやってすぐに弱るから人間は嫌いなんだ、と死神百番は呟いた。小さな草刈り鎌を手に、弱った人間へ近づいていく。
人である彼女は微笑んでいた。死神に命を奪われようとしているのに、何も怖いことなどないかのように、幸せそうに笑っていた。
「この五十年間、楽しかったわ」
彼女は言う。
「大きな怪我もなく、病気もせずに生きられた。私は幸せだった」
「そうかい」
「あなたが、見守ってくれたからね」
「僕は君の監視役だっただけさ」
「いつでも隣で助けてくれた……そんな気がするの。ありがとう」
死神は草刈り鎌を彼女の胸に当てる。切っ先で一度だけつつけば、彼女の魂はふわりと宙に躍り出るのだった。
「おばあちゃんになるまで守ってくれて、ありがとうね、大好きよ」
死神百番は人間の事が嫌いだ。
幸福そうな顔をして、または弱々しい苦い顔をして、それでも死を受け入れて旅立ってしまう人間たちが嫌いだ。
取り残される百番は、人間の弱さと脆さが嫌いだ。