×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

生贄と白竜3

 仕方ない、と唸った白竜が山を下りていった。
 柿泥棒サザナミは黙って見送る。やがて数刻ののち、白い鱗と毛髪をしゃらりとくねらせ、竜は舞い戻ってきた。
「弓矢は調達できたわよ」
 どうやら神格として崇められているこの竜は、そのまま集落に姿を見せて弓矢を寄こすよう告げたらしい。あまりにも大胆かつ大雑把な行動に矢が射れるサザナミは目を丸くした。
 山神として新米である竜のとった行動が正しいのかどうかなど誰も知らない。勿論村の者だって知らない。
「ええと、紙は……」
「あんたの着物の裾でいいわよ」
「筆は」
「そこらに炭が転がってるから使いなさいな」
 雑である。
 しかし生贄の残骸に文字を書いて飛ばすとなれば受け取った側は大いに怯えるだろう事は確か。要求を飲ませるのに合理的といえば合理的であった。
 渋々着物を引き裂いたサザナミが、そこに木炭で主張を書き記していく。
 矢に結びつけた布切れは存外重たく矢がうまく飛ぶか分からないものになってしまったが、それでもサザナミの腕の見せ所、上空に向かって勢いよく弓を弾いたのだった。

 きいん、と高い音が響く。

 矢は風を切り裂けたようだ。
「ところで竜殿よ」
 サザナミは何もない段々畑から池のほとりに戻ってくると竜を見る。身の丈が一丈ほどもある巨大な彼もしくは彼女は、ゆらりと長い首をサザナミに向けた。
「何よ」
「貴殿の名を知りたい」
「ないわ。白竜しか」
 誰かが山を登ってくる音がする。サザナミに木陰へ隠れるよう言うと、白竜は居住まいを正して祠の前にしゃんと立った。
 上ってきたのは集落の長だった。
「山神様……青菜の苗を十、豆を三十ほど持って参りました」
「そこに置くが良い」
「山神様はどうしてこのようなものを?」
「野山の繁栄のために」
「あの、柿泥棒はどうなりました」
「食ろうた。さあ、行け。用立てはもうない」
 用事が済んだらさっさと追い立てる。へえ、へえ、と腰が引けた様子の長が集落へ逃げ帰る様を見送り、白竜は息を一つついた。偉そうな口ぶりは肩がこるようだ。
「見事な口上であった」
 サザナミが拍手をしながら木陰より出でて、豆と青菜をしげしげと眺める。
「からかうのはよして頂戴」
 少しばかり不機嫌な様子で白竜がサザナミを睨んだ。
「タチカワ殿とお呼びしようか」
「何よタチカワって」
「タチカワ、ダンジュウロウを知らぬか」
「山から出たことないわ」
「名演技の役者であってな」
 やっぱりからかってるんじゃない!
 白竜の怒りの声に小鳥が空に逃げていく。
 サザナミはううむと唸り、白竜の名を却下された事実に頭をかいていた。
「駄目かあ」