×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

張り紙だらけの部屋

 その部屋は狭く、床面積の半分近くをベッドに占領されていた。
 壁にはべたべたと張り紙が何枚も何枚も貼り付けられており、まるで開かずの間に貼られたお札を思わせる不気味ぶりだった。
 紙に書いてある事といえば、「九時に起きる」「起きた後は水を飲む」など、なんでもないものばかりだ。
 習慣化ができない者の部屋である。
 脳内に毎日の予定をとどめておくスペースがない者の部屋なのである。
 紙に書く、という作業をして頭の中をいったん空にしなければ、この部屋の住人は毎日のことを記憶しておけないのだろう。

「人前に出るときは尻尾を隠す」

 天井に近い壁に貼られた紙がはらりと剥がれ、布団に包まっている部屋の主の上へと落ちてきた。
「……あと五分」
 布団の中で狸が呟く。
 そういった怠惰な習慣はすぐに身につくのが厄介である。
 この化け狸はまだ人間の生活に慣れていないようだ。