張り紙だらけの部屋
その部屋は狭く、床面積の半分近くをベッドに占領されていた。
壁にはべたべたと張り紙が何枚も何枚も貼り付けられており、まるで開かずの間に貼られたお札を思わせる不気味ぶりだった。
紙に書いてある事といえば、「九時に起きる」「起きた後は水を飲む」など、なんでもないものばかりだ。
習慣化ができない者の部屋である。
脳内に毎日の予定をとどめておくスペースがない者の部屋なのである。
紙に書く、という作業をして頭の中をいったん空にしなければ、この部屋の住人は毎日のことを記憶しておけないのだろう。
「人前に出るときは尻尾を隠す」
天井に近い壁に貼られた紙がはらりと剥がれ、布団に包まっている部屋の主の上へと落ちてきた。
「……あと五分」
布団の中で狸が呟く。
そういった怠惰な習慣はすぐに身につくのが厄介である。
この化け狸はまだ人間の生活に慣れていないようだ。