テリトリーパトロール
人を小馬鹿にしたような敬語の上、慇懃無礼なオーバーリアクションで話す。そんな女性を目の前にして、マサムネと呼ばれる猫耳の女はペット用の缶詰をもぐついていた。
「まぁ〜! その、猫耳っていうのかしら? それって直に生えてらっしゃるの? 触らせていただいても宜しいですかぁ?」
「触れるな」
「あらぁ〜! なんて愛想のない! そんな態度でお友達いらっしゃるの? 歩み寄ることも必要ではありませんかぁ?」
もぐもぐ、もぐもぐ。
頭部から猫の耳を生やし、人間の耳が生えている部分は毛で覆われて何もない。マサムネはそれを見せると、まぁまぁ煩い女の元を離れるように背を向けた。
「あら、どちらにいらっしゃるの? 私もつれていってぇ!」
「業務妨害だ」
爪を伸ばして女の喉元につきつけるマサムネ。
女は。
いや。
黒いぐちゃぐちゃな塊は。
女のシルエットをした塊は。
「いやぁ〜! 怖いわぁ! そんなことをしてお友達に嫌われませんのぉ? もう少しお行儀よくできないものかしらぁ?」
甲高い声で小馬鹿にしながら、慇懃無礼にオーバーリアクションを繰り返すのだった。
マサムネは真っ黒な塊に目を向ける。
爪を喉へ突き立てて、食い込ませる。
「我輩は異界警察だ。業務執行妨害で貴様を切り刻む」
埼玉県、秘境市。
マサムネは自分の縄張りを守る為に、今日もパトロールを続行する。
ぐちゃぐちゃに潰れた怨念たちを切り刻みながら、今日もペット用の缶詰を頬張って、埼玉県秘境市黙祷区を歩くのだ。